平山郁夫は600冊を優に超えるスケッチブックを鎌倉のアトリエに残しています。旅先でも、入院先でも、平山は常にスケッチブックを手元に置き、寸暇を惜しんでは鉛筆を走らせていました。みずからのスケッチついて、こう語っています。
「スケッチとは、ひとことで言うならば、絵を描こうという者にとって、もっとも大事な訓練作業だ。運動選手が毎日ランニングをして基礎体力を充実させるように、画家は日頃のスケッチで常に描写力を磨いておかねば、いざというときに自分の思う表現ができない。スケッチは感激をえたら、後は一気に真正面から対象にぶつかり、無我夢中で、あるがままを描写するのだ。感激なしに活きた絵はかけない。スケッチは絵を描く人にとって、必要不可欠な訓練であるばかりではなく、知識も技術も感覚も、つまりは全人格の錬磨となるものなのだ。」