《流水間断無 奥入瀬渓流》1994年

「流水間断無」。このタイトルは、「流れる水はかたときも留まらず、絶えることなく流れ続ける」という禅の言葉に由来するものです。

1959年、初夏。29歳の平山郁夫は、学生のスケッチ旅行引率のため、青森の奥入瀬渓流におもむきます。ちょうど、健康面や生活の不安、創作の悩みを抱えていた時期でした。しかしこの旅をきっかけに、画壇デビュー作ともいうべき「仏教伝来」を制作し、新たな画境をひらきます。それから、30年以上の歳月を経て、再び奥入瀬に取り組んだのが本作です。画家はこう語っています。

「人生は儚い。しかし、そのはかなさの中でも、瞬間瞬間の生があり、美がある。だからこそ生命は美しいのだと思う。瞬間の美を永遠に刻む奥入瀬の残像はいまだ私の心に鮮やかに残っている」